伝統工芸の技と素材を生かし次世代につなぐものづくりへ

■表題:伝統工芸の技と素材を生かし、次世代につなぐものづくりへ
■講師:京都 金網つじ 二代目 辻 徹 氏
■日時:201931日(金)19:0021:00
■会場:知遊館
■受講者数:30名

幼い頃から、家業を継ぐのが嫌で仕方がなかったという講師。バブルで周りが派手な暮らしをする中、針金をずっと手で編んでいくという地道な家業は、講師の眼には魅力的に映りませんでした。

そんな講師は高校卒業後、複数の仕事を掛け持ちながら働き、その後HIPHOP系の洋服屋に転職。なんと18歳の時には京都で3店舗を任されるまでに。「自分は家業から離れて生きていくものだと思っていた」と当時を振り返ります。ところが、次第に「仕入れたものを売る」というやり方に違和感を抱くようになり、久しぶりに実家に帰った時、昔からの変わらぬ姿で仕事をしていた両親の姿を見て講師は心を動かされ、「この家業を継ごう」と決意。21歳で家業を継ぎ、現在17年になります。

「家業を継いで約3年は父親との衝突の繰り返しでした」。父親のプライドと自身の無知さ(父親を古く感じる)が交差しぶつかりつつも、17年を経て、継続を重ねて見えてくるものもあると講師は言います。

活動の広がりは、京都市商工会議所の事業でフランスへ行ったことが大きな転機となりました。持って行った商品は全く売れず、改めて自社の商品の良さを見直すことや、海外で使用されるイメージを考えるようになりました。当初は自社の商品を売りに行くことが目的でしたが、「それからは相手の国の文化や考え方を理解するために海外へ足を運ぶようになった」といいます。

海外と日本との行き来を繰り返すうち、使い方や文化を理解できるようになり、海外でも商品が購入されるようになってくるとともに、海外用に作った商品が日本でも受け入れられ、国内で商売の幅も広がりました。

16カ国ほどの国を訪れている講師が魅了されたのは、アメリカで知った「多様性」という言葉。本人が好きなことであれば良い、何を着ていても良いという自由な風潮。社会生活における協調性が少し欠けている人でも、何かの技術に秀でている人であったり、職人だったりする場合社会に認められている。他人からは異質な様子に見えたとしても、活躍することができる社会に講師は惹かれました。

「金網つじとして大事なことは、ものづくりのクオリティをあげること。お客様に喜んでもらうものを提供するのは大前提で、その次に個性の違いを認め合い、個性を活かして楽しく働ける環境をつくることを大切にしたい」。

金網つじの人気商品に「焼き網」があります。昔は、「餅網」といって餅やふぐを焼き、料理屋に納めていた商品です。炭の匂いをつけず、食材の芯に熱を通せるとあり需要がありました。

自宅では、それでパンを焼くのが当たり前だったといいます。ある時、雑誌の取材時にそれが知られることとなり、ガスコンロでパンを焼くと美味しいという評判が広がり、パンのCMの影響もあって大ヒットに至りました。

講師は、家業を継ぐ前に、レゲエ音楽が好きだったことから、ジャマイカに一人旅に出ました。「ワンライフ ワンチャンス(一生は一度しかない。悔いを残すな)メディアを鵜呑みにするのではなく、あくまで自分で体感することが必要だ」。ジャマイカの友人が発した言葉を大切にし、自分の体感から生み出したものこそが、「焼き網」でした。

 

セラミック板は、昔は、石綿みたいな粘土が付いたもので洗えませんでした。販売時には、「洗うとセラミック板がもろくなりやすいので、洗わずに使ってください」と説明します。ところが、海外の人は洗ってしまう。そこで講師は、洗えて、なおかつ美味しく食べることができる調理器具をつくりたいと思うようになりました。

洗うことができ、遠赤外線効果も昔より遥かに高いファインセラミックの板を搭載する商品を考案したところ、周りからは「せっかく今売れているのに、次に出して売れなくなったらどうする?」という声。しかし、「職人だからこそアップデートしたい」という思いは、講師と父親は考えが一致したといいます。

 

6年前から、京都の伝統工芸を受け継ぐクリエイティブユニット「GO ON」に属し、「伝統工芸を憧れの仕事にしよう」と新しい職人の世界を創り出す活動も始めています。

今まで当たり前のように「良い」とされてきたものを疑いもなく「良い」とは考えたくないという講師。

「ものには気配がある、百年前にはあったものが今は無いこともあるかもしれない。今の人たちの生活スタイルに合わせて、必要とされるもののサイズや形は変わる。今後は、今だから使える素材を取り入れたり、更にチャレンジをしていきたい」。

講師は、現代の職人の技術の高さを自負しています。「昔は感覚に頼っていた技術も、今は精密さを出す工夫をしている。年月を重ねる中で道具も経験値も高まっている。昔の古いものに高い価値を感じる人も多いが、伝統工芸は一概に昔のほうが良かったとは言えない」。この思いは、実直なものづくりの大切さを背中で示してくれた父親と同じといいます。

 

多様性や他と違うことにこそ価値があると考えている講師。軽快なトークの奥には、異なる価値観を認める柔軟な眼差しと、伝統工芸を背負っていく覚悟が感じられました。

 

レポート:一般社団法人プレイス

MENU