日曜大工みたいな 川の自然再生講座 全4回
講師:滋賀県立大学准教授 瀧 健太郎 氏
日時:2019年9月22日10:00〜16:30
2019年9月23日10:00〜12:00(川の自然再生講座)
/13:00〜15:00(記者直伝 発信力を磨く講座)
会場:後野公民館および野田川(22日)
岩屋公民館および岩屋川(23日)
参加者:22日62名、23日28名(22日23日両日合わせて90名)
【1】小さな自然再生のコツ講義
1日目は、後野地区を拠点に野田川を使った川の講座が行われました。
今回の講座の企画者である毎日新聞の安部拓輝記者より「みんなが遊べる川をつくりたいと思って今日の講座を作りました。今日の主役は小学生。君たちの疑問が出発点です。」という挨拶で始まりました。
受講生には、後野地区、岩屋地区の住民、川の自然に関心を寄せる小学生、滋賀県立大学の学生、海洋高校マリンバイオ部の学生、宮津高校のフィールド研究部の学生の姿もありました。
講師の瀧先生からは、「ふるさとの川を一緒に考えていきたい。」という挨拶があり、多自然川の作り方、治水や水利用、環境保全の事例などについて図説を使って説明されました。「土木工事だけでは、川は再生しない。地域の方が関わりながら再生するのが大事」とお話しされました。
治水の話では、堤防方式の違いによるリスクについて学びました。農業をするには、高い堤防があることで水を供給しやすい。しかし、堤防は崩れると災害の危険が高くなります。堤防で底上げするよりも、掘り込む形にすることで排水が海へ流れるようになり、安全性が保たれる方法もあるそうです。
土木工事で川を広げることによって山の土砂が川底に溜まりやすくなり、海まで水を運ぶ力が弱くなる。そうすると、川底に土砂が溜まり、草が生え更に土砂が溜まることで自然と堤防ができてしまいます。そうなってしまうと土砂を排除し続けなくてはなりません。
草木も残し、防備林をつくることで川があふれた時にも対応できる状態にしておくことが必要だと話されました。少しの工夫をすることで、魚も生きることができて、子ども遊べるような、安全な川の環境ができる。その結果、子どもたちが遊ぶ川には大人たちはゴミを捨てることもなくなると説明されました。
一方で、国の土木工事では大規模工事が多く、費用も膨大です。また、すぐに工事を開始するのではなく、川の様子を見ながらその場所に適した工法を探ることが大事になります。地域側で川に対する知識を持ち按配を確認した上で国に提案すると、土木事務所からの予算がつきやすくなり、対応してもらいやすくなるそうです。
例えば、地域で取り組む河川の制御方法は、水制を上向きに作るのが良いそうです。石を積むだけでも影響は大きく、頑強につくりすぎず、大雨などを受けた時には流れるくらいにしておく。流路を変えるだけで、流れる水もきれいになります。また、川の中に池をつくることで魚が住むことができる場所もできます。
また、他にも川について悪影響を及ぼす理由は、森の管理が行き届いていないという現状が影響していると説明がありました。解決方法の一つとして間伐材を活用する工法も紹介されました。大切なことは生態に合わせる順応性です。
昼食後は、野田川に移動して実際に土嚢で流路をつくる実践を行いました。
川の中に溜まっている土砂を袋に詰めて、土嚢をつくり川上に向かって上向きの水制をつくりました。小学生や高校生たちが、たくさんの石を運んで堰の強化を行いました。
水制を整えるとたちまち水の透明度や、川底の土の感触に変化が生まれてきます。参加者はその変化に興奮しながら技術の深さを体感しました。実践後は、後野公民館に戻って仕組みのおさらいをしました。
そこからは、4つのグループに分かれて、「これから川に対して自分たちはどんなことができるか」というテーマでアイデアを出し発表します。
野田川の白地図をもとに、「この砂州をとばすにはどうしたらよいか?」「水害の被害をなくすにはどうすればよいか。」「魚の産卵場をどこにつくるか、休ませる場所をどこにつくるか。」など習った技術を活かして考えました。また、技術的な設計や「まずは、関心を集めるために川の俳句大会や、フォトコンクール、自分の入りたい川を絵にするコンクールなどを開いてはどうか。」という文化的要素や、「変化のわかりやすい場所にモデルをつくり、地区の中で関心をもてるような仕組みがないと連携できないのではないか。」といった地域課題についても話し合われました。
講師の瀧先生からは、「とりあえずできるところからやってみる。楽しみながらやらないと続かないし、達成感や誇りを感じることができるようにする。そして、具体的に進めていく方法を考え、誰でも関われる体制づくが大切です。」とアドバイスがありました。
【3】地域別・お試しプラン見直し 〜岩屋川編〜
2日目は、岩屋地区を拠点に活動しました。岩屋公民館で初日の講座と野田川での実践の振り返りを行いました。
~岩屋川での実践~
岩屋川と野田川は環境が異なりました。瀧先生からは、「今日は、湿地の現場です。ここではどういう再生ができるか、みんなで力を合わせて考えできることをやりましょう」と挨拶があり湿地の説明の話から始まりました。
川が広がると土砂が溜まるようになり、土砂が溜まった場所には、ミゾソバといった植物が生育するようになります。そして、次にツルヨシが生え根っこを広げて砂を更に溜め込むようになっていきます。岩屋川の状態は、ツルヨシは生えている状況でした。
進行が進むと、ハナムグラ、カナムグラが生えるようになり、水の成長を妨げ砂州が高くなっていきます。更に、セイタカアワダチソウが育つようになると、危険信号だそうです。最後は柳が育ち始めると、土砂は川の力で流れることができなくなるそうです。
そこで、川岸に出張り過ぎた砂州の土砂を削りながら土嚢をつくり、魚道(魚が川をあがれる道)をつくることになりました。
コンクリートで出来たダムの段差にも土嚢で階段をつくることで、魚がのぼれる道も作ることができます。
土嚢を積むコツは、できるだけ泡立てたり、水はねしたりしないように滑らかに積むこと。細かい石を土嚢と土嚢の間に入れるという技も教わりました。
また、魚が休める水のたまり場を作るために、川石でバブ工の水制もつくりました。
作業が進むと、流路沿いは川の透明度が上がり、石を積んだラインに沿って穏やかに水が溜まる湾ができました。作業の合間には、滋賀県立大学の学生が岩屋川に生息する生き物たちを捕獲して他の受講生にも見せてくれました。
川での実践後は岩屋公民館に戻り、感想や今後の抱負などを共有しました。受講生からは、「川祭りを開いて、地域で達成感を共有する場をつくりたい、そして、地域に対する思いを次世代へつなげていきたい」という意見が出ました。
最後に瀧先生は、地域で良い川づくりをするには、「川に入るな」ではなく「入ってもいいよ」というサインを示し、住民が散歩等の日常の中で、川に石をひとつ置いて帰ってくるような行動ができようになることが大切だとメッセージを残されました。
今回、2つの地区で学び多い2日間の講座となりました。ちょっとしたことで川の環境づくりができるという実感と、多様な人たちが関わって実践することができた充実感が印象的でした。海洋高校や宮津高校、そして滋賀県立大の学生と、頼もしい若い力と、地域に携わる地元の方々の思い、そして地元の小学生たちが一緒になって、体を動かし共に考える貴重な交流となりました。
【4】記者直伝 発信力を磨く講座『磨け発信力講座』
2日目の午後は、毎日新聞社の安部拓輝記者と青柳聡史編集者による発信力を磨く講座が行われました。二人の講師からは貴重な制作現場でのノウハウを伝授されました。
作文づくりのマル秘テクニックとポイントを学びます。まずは、話を聞いたことは、一文字でも多く書きとめること。そして、書くにあたっては、誰に読んでもらうかを先に決めることが大事だと説明がありました。また、文章を作成する際には、読んでもらう人の心をつかむ言葉や付け加える説明、社会背景なども参考に構成します。そして、最後は自分の感想を加えます。伝える文章を書くためには、読んだ人にどうしてほしいかを念頭に置きながら考えていくことがポイントだと説明がありました。
他にも、毎日新聞の記事を例に、見出しづくりの考え方を教わりました。題して「消えた見出しを探してみよう!」。どんな見出しを置いたらよいか参加者で考えました。
大見出しは、コピーライティングの原則文字数を意識しながら考えます。漢字ばかりでもダメで、多過ぎない文字数でまとめます。映像が浮かぶような表現や、写真と呼応させるような言葉、呼びかける言葉づかいを使うなどの技術も教わりました。具体的なことを入れて、より臨場感を伝えることが大事だそうです。
要するに、誰に読んでもらうかを意識して、読む人の心を鷲掴みにする言葉を探る必要がありました。
次に、『媒体設計・デザイン編』として青柳編集者から見せ方についての技術を教わりました。
言葉だけじゃ伝わらないイメージを、どのような感覚にして伝えたいのか考えます。言葉を伝えたいのはなぜなのか、そのためにどういう内容を、どういうイメージで伝えるのかが適正かについて考えます。また、伝える対象、理解できる頻度、内容に合う媒体は何なのかを考え、欲しいイメージに合わせた様式を選択しました。
青柳編集者からは、それぞれの媒体(チラシや看板、WEB上の発信など)が持つ特性と、紙質や印刷の技法、紙媒体における技術的な表現の紹介がありました。
様式とは「人間の感じ方」の共通部分で、紙面に占める図の割合や、余白の面積、文字の大きさ、写真の大きさ、配置の仕方、書体の種類、太さ、字間、行間、字詰めなどによって与える印象です。それぞれの特徴が与える感覚を色々な例で教わりました。
最後に、青柳編集者から、発信力を磨くためには、毎日のふりかえりが大切であり、日々の中で目にするものは教材、いいなと感じるものがあればその理由を考えることが、自分の力になると学びました。